エッセイ 第1回自然と話そう 文/北山耕平

第1回 自然と話そう

文/北山耕平イラスト/角 愼作
  • Section 03ネイティブたちの夏祭り
 夏に特別の祭りをする人たちは世界にさまざまあります。平原インディアンと呼ばれる人たちのなかでも、カイオワとかダコタと呼ばれる人たちには「サンダンス」とされる大切な祭りがあり、これはある意味で、太陽と語り合う儀式といってもいいのです。

 ダコタの人たちはそれを「太陽を見つめて踊る」儀式と呼んでいました。

 海のように広い大草原で家族ごとにばらばらになって暮らしている彼らが、みんなで寄り集まり、友情をあらためあい、それぞれのニュースを分け合い、持ってるものを分け合い、伴侶を見つけたりする祭りです。
 みんなのこころがひとつになり、地球に生きるスピリットを確認する幸せな時間。

 大草原に暮らす人々の家族は、基本バッファローについて移動する遊牧の民です。冬の間、彼らは各地に離ればなれに暮らします。
 そして夏になると、彼らはバッファローの群れを一堂に集めて掛け合わせることになります。

 彼らの祭りは四日間続く盛大なもの。

 儀式は朝日に聖なる煙草の煙を捧げ、その四日間の天気が穏やかなることを祈り、年に一度の集会がつつがなく行われ、バッファローの肉がみんなに振る舞われ、踊りが延々と続くのです。 集会場所の地面には、サンダンスのための特別な柱が建てられます。

それから四日間、いわゆるバッファロー・ダンスが毎日戦士たちによって演じられるのです。そして四日目、戦士たちは四回目の踊りにはいります。
 戦士たちは 文字どおりそれまで半年分の「太陽」と「地球」のスピリットからの特別な力を受けて、「太陽を見つめて」踊るのです。
 その間、戦士たちはみずからのつま先を革紐でつなぎ、延々と打ち鳴らされるドラムの音と歌と観客の励ましに支えられて踊り続けます。
 部族によってはこのときみずからの肉体の胸や背中の筋肉を実際に特別な柱とつなぎ、みずからの力でつないでいる革紐が切れて自由になるまで踊りは続くのです。
 踊りが終わるとき、戦士たちの太陽に語りかける儀式も終わり、ヴィジョンが授けられるとされています。

太陽のようなパワフルなもの、地球のすべての命を与えてくれたものに語りかけるのは実際命をかけるぐらい大変ですが、せっかくの夏なのですから、自然のなかに隠れている見えない人を見つけて話しかけて友達になることはきっと喜びにもなります。
 自然のなかにいる隠れて見えない人とたくさん友達ができたなら、彼らがこれからはあなたを守ってくれるでしょう。

 最後に秋になり、日が少し短くなると、「夏」と「冬」が争う日がきます。極北に暮らすイヌイットと呼ばれる人たちには、冬と夏を綱引きで争う魔法というか儀式があります。
 一族を夏に生まれた夏人間と、冬に生まれた冬人間に分けて、アザラシの革のロープで夏と冬の綱引きをして、夏人間組が勝利すると、来たる冬は厳しくないとされるのです。
文/北山耕平イラスト/角 愼作
北山耕平(きたやま・こうへい) 1949年、神奈川県生まれ。
編集者、作家、翻訳家。日本のアウトドアライフやカウンターカルチャーの草分け的存在。現在も、環太平洋の先住民族とその精神世界や文化全般の研究・紹介を精力的に行っている。著書に、『地球のレッスン』『虹の戦士』(太田出版)、『自然のレッスン』(ちくま文庫)、『ネイティブ・マインド』(サンマーク文庫)ほか多数。
お気に入りの記事などシェアをお願いします

お気に入りの記事などシェアをお願いします