エッセイ 第1回自然と話そう 文/北山耕平

第1回 自然と話そう

文/北山耕平イラスト/角 愼作

1960年代から日本のアウトドアライフの楽しみ方を提唱し、「カウンターカルチャー」を牽引してきた北山耕平さん。若かりしころアメリカン・ネイティブの暮らし方や生き方に触れ、大きく価値観が変わったといいます。自然のなかで過ごすための「心得」を述べていただきました。

  • Section 01あなたから語りかける

自然のなかには
見えない人が
たくさん隠れている

『地球のレッスン』北山耕平(ちくま文庫) より
 この言葉を書きとめたのは、2000年になってすぐの ことです。この言葉を書きとめる前にも、書きとめた後 にも、いろいろなことがありました。ぼくがこの教えを 学んだのは、1980年前後です。
 自然のなかに隠れている見えない人について、まるで 意識すらしない人がこのところますます増えた気がする のは、ぼくだけでしょうか。

 しかし、ペットを可愛がる人のなかには、あたりまえ のように犬や猫に話しかけている人は少なくありません。 職業として牛や羊や豚を飼っている人も、無意識のよう に牛や羊や豚に語りかけている人は珍しくない。
 といって自然と話そうというと、なぜか難しいことの ように考えてしまうのはなぜだろう?

 陸にも海にももちろん空にも、自然にはめったに話し かけたことのない動物や生き物がたくさんいます。相手 はどんな動物でもかまわない。虻(あぶ)、蜂、蝿(は え)、蚊、ヤモリ、百足(むかで)、昆虫、蛇、鳥、猪 (いのしし)、熊、魚。自然界であなたの出会う生き物 なら、なんでもいいのです。

 せっかくの夏なんだから、いい機会だし、偶然出会う 自然界に生きてるものに語りかけてみてください。

 あなたが語りかけると、それはなんであれ、きっとあ なたに語りかけてくるでしょう。

 でもあなたが話しかけないと、それは絶対に語りかけ てはこないのですね。
 秘密の鍵はここにあります。まずあなたから語りかけ ること。

 あなたから語りかけないと、あなたがその生き物を理 解することもない。
 理解しないから、それをあなたは恐れることになる。

 恐れがあるから、相手をやっつけようとする。

 そうなると、相手もあなたをやっつけようとなる。

 したがってその結果、あなたはその生き物をやっつけ ることで、自分を叩き潰し、痛めつけることになるので す。

 せっかくの夏のキャンプ体験を大切なものにする魔法 は自然と話すこと。静けさに心を開き、自然に隠れて見 えない人の耳を傾けて聴くことからはじめましよう。
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