ゴアテックス・プロダクト
ゴアテックス・プロダクト
メーカー・根ほり葉ほり

年間降水量が世界平均の2倍もある
「雨大国」ニッポンの強い味方

ゴアテックス・プロダクト

取材・文/村瀬健介

アウトドアライフを楽しんでいる人で、「ゴアテックス(GORE-TEX)プロダクト」のロゴマークのついた製品のお世話になったことのない人は、皆無と言っていいのでは?「ゴアは製品を作っているだけではなく、約束を創っています」の言葉どおり、自社製品だけではなく、他社が作った製品までを保証するという徹底ぶりがおみごと。

はじまりはシールテープの開発実験

 ゴアテックス製品の中核をなす新ポリマーePTFE(延伸ポリテトラフルオロエチレン)が産声を上げたのは、1969年のアメリカ・デラウェア州でのこと。でも、その前段の歴史は、その10年前にさかのぼります。世界的な大手化学工業会社、デュポンの研究スタッフとして勤めていたウィルバート(ビル)・ゴアは、当時はまだ開発されていなかったフッ素素材樹脂化合物、ポリトラフルオロエチレン(PTFE)が持っている潜在的な可能性を信じ、その研究・開発を自力で成しとげるべく退職してしまったのです。
 ウィルバートは妻のジュネヴィーヴ・ゴアと協力して、W・L・ゴア&アソシエーツを創立。やがて、息子のボブ・ゴアがスタッフとして加わり、PTFTをさらに活用する可能性を模索するなかで、ロッド(棒)状のPTFTを延伸させてePTFEメンブレンを開発することに成功したのが1969年。
 この延伸ポリマーの特性をウェアの用途に合わせて最適化したのが「ゴアテックス・メンブレン」で、1平方cmあたり14億個もの微細な孔(あな)を含むこの素材いちばんの特徴は、「防水性」、「防風性」と「透湿性」を兼ね備えていることにありました。それぞれの孔の大きさは、なんと水滴の2万分の1。なおかつ、水蒸気分子の700倍の大きさのため、水は通さず蒸発した汗は放出させるというわけです。
 これが、のちの巨人「ゴアテックス製品」誕生へとつながる物語です。

「ゴアテックス」製品の誕生は、アウトドア界に文字どおり革命的な変化をもたらした。

防水性と透湿性という
「矛楯(むじゅん)」

ある程度アウトドアライフを経験されている方々にはもう常識だとは思いますが、この「防水性」と「透湿性」の両立が、いかにむずかしいかをご説明しましょう。いちばんいい例が、レインジャケットです。
雨のなか、「防水・防風性能」だけが100%のジャケットなどを着て山や野原を歩き回るとします。すると、外から来る雨や風は防げてしばらくは快適なのですが、体のなかから出てくる水分、つまり汗となってしたたり落ち、蒸発する水分も100%「防水」、遮断されて行き場を失い、内部はほとんどサウナ状態。気温も平地とさほど変わらない夏場の低山なら地獄の暑さと化し、気温が低下すれば「汗冷え」の元凶と化すでしょう。
 そこで活躍するのが、「透湿性能」。ジャケット内部の水蒸気を外部に発散させてムレを防いでくれるという、ありがたい性能です。続いて、外からの水分の染みこみは防ぎながら、内側からの水分の蒸散を促進することは可能?という、しごく当然の疑問が生まれます。そのために登場するのが、第三の性能、「撥水(はっすい)性」です。ありがたい透湿性を確保しながら、できる限りの防水性を、「水をはじく」という性能を使って保とうというのですから、まさに「矛楯」解決のレベル。これはもう神ワザといってもいいでしょう。
それを最初に成し遂げたのが、ゴアテックス製品だった、というわけです。

防水=水をなかまで通さない。撥水=布の表面で水滴が玉のように転がり水をはじく。この違いは、かなり大きい。

無限の可能性を秘めた素材
「ゴアテックス メンブレン」

人類が誕生して以来いまに至るまで、ずっと畏敬の対象だった自然。なかでも、雨水の染みこみに対しての工夫は間断なく続けられ、繊維じたいやその織り方はもちろん、油でもロウでも樹液でも、それこそ利用できるものは何でも使われてきました。
その歴史にひとつの大きな区切りをつけたのが、PTFEフィルム(フッ素素材樹脂)の材料を特殊延伸加工したフィルム「ゴアテックス メンブレン」。このフィルムを表生地に貼り合わせた2層構造品、場合によっては、さらに裏地を貼り合わせるという3層構造品になっているのがゴアテックス製品の基本です。
そのうえで、浸水が懸念される縫い目は、最大限に防水性を発揮してくれる「GORE-SEAMⓇテープ」でガード。ゴア社から認定を受けた工場で、特許取得済みの専用機器を使い、特別な訓練を受けた技術者の手によって加工が行われます。これが、「ゴア社は製品を作っているだけではなく、約束を創っています」と高らかに宣言していることの根拠なのです。
さらにこのePTFEの技術を発展させた「ゴアセレクトⓇメンブレン」が、韓国系の現代(ヒュンダイ)自動車が作った「NEXO」という燃料電池車ばかりでなく、トヨタの「MIRAI」やホンダの「クラリティFUEL CELL」、はてはパナソニックの家庭用コージェネレーション・システム「エネファーム」にまで採用されているというのですから、活躍の場は、ほぼ無限大の勢いです。

防水性、透湿性、防風性を備えた「ゴアテックス メンブレン」こそ、ゴアテックス製品の核心部。

防水・撥水性能のよしあしは
命にもかかわる

アウトドアライフの経験が長い人ほど、この「防水・撥水性能」のよしあしに気を使います。それは、最近、とくに増えている「低体温症」を引きおこす原因が、ふつう考えられている以上に、季節を問わず、防水・撥水性能やその持続時間の長さを示す「防水耐久性」に左右されるからです。なんといっても日本は雨の多い国。雨中の登山や野外行動は、ほとんど必須といってもいいでしょう。染みこんだ雨水や汗による濡(ぬ)れは、著しく体温を低下させる元凶なのです。
ゴア社は、防水・撥水機能の回復のために、1着用後、メーカーの洗濯表示に従ってウェアなどを洗濯し、軽く脱水したうえで自然乾燥、もしくは乾燥機で乾燥。2乾いてから、さらに20分以上を目安に温風で乾燥。3乾燥機を使わないときは、完全に乾いてからアイロンの「低温」、スチームなしで当て布をしながら熱を加えることを推奨しています。それでも回復しないようなら、スプレータイプや水で薄めて浸けるタイプの撥水剤を使って撥水加工することをすすめています。

防水性、撥水性や透湿性ばかりでなく、着ごこちのよさや、ファッション性の高さも、どんどん進化しているゴアテックス製品。
DATA
日本ゴアカスタマーサービスセンター
TEL. 0120-015-841
https//www.gore-tex.jp/ 

お気に入りの記事などシェアをお願いします

お気に入りの記事などシェアをお願いします