他人事だと思っていたことが、いざ自分の身にふりかかるとき、初めて事の重大さに気づいて愕然（がくぜん）とする。「夢のリニア超特急」はそんな思いを抱いたミュージシャン・森田修史の危機感から生まれたものだ。ある日、自身が「根を下ろす場所」と決めた南アルプスの自然が、リニア新幹線の工事により破壊されると知る。
メッセージとしての告発と、穏やかに歌い上げる自然への讃歌、最後に人間讃歌が1枚のＣＤとなった。前者はタイトルでもある「夢のリニア超特急」、そして福島の母親たちの共同詩から生まれた「忘れないで」。「夢の――」は口笛も入り、軽いノリの音楽をバックに紡ぎ出されるラップだが、背後にある不安げな音も聞こえてくる。歌とピアノ、三線による「忘れないで」は、慌ただしい生活のどこかへ「福島」を置き去っていたことを気づかせ、何だか切ない。
後者といえる７曲は、水の輝きと恵み、森の樹々、大地から生命のつながりまでが、ときに静かに、ときに安らかな歌声となって、心の中に優しく届く。（文／向 和美）
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